【4回目】紡ぐ

4回目 紡ぐ

 

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「もともと誰の技なのかとか、誰の考えなのかとかって、本当にわかるものなのかな。さっきも言ったけど、そこまで遡ってたら、きりがないと思うんだよ。」

 

「それなら簡単だよ。吉田君がさっき言った通り、始まりまで遡るんだよ。吉田君のやっているスポーツは、どこで始まったの?つまりどこが発祥?」

 

「うーん、詳しくは分からないんだけど、色んな説があって。一応、中世のフランスだってことになってるけど、アテネだって話もあるし、日本が発祥だって都市伝説みたいな話もあるし。それはよくわからない。」

 

「なるほどね。だけど、今よりずっと昔に始まったことは確かなわけだ。」

 

「うん。スポーツとして始まったころから数えても100年は経ってるはずだよ。」

 

「じゃあその100年の間に、色んな選手がいたはずだよね。そこで一つ質問なんだけど、その100年前の一流の選手と、今の一流の選手が試合したらどっちが勝つかな?」

 

「そりゃ今の選手だろ。ルールだって変わってるし。」

 

「じゃあ仮に、ルールを統一したとしたら?」

 

「それでも今の選手だな。動きのスムーズさとか、技のキレとか、体格とか、全部が今の方が優れてるに決まってるよ。なんだってそうだろ?」

 

「うん、その通りだね。人類は常に進化していくものなんだ。スポーツに限らず、文明もそう。これを生成発展というんだけど。この世界は、進化することを望んでいるし、その通りに進化するんだ。そして今ある文明も、そういうスポーツの技術なんかも、今まで沢山の人が知恵や技術を紡いできた結果なんだ。だから、吉田君の言う通り、今の選手と昔の選手だと、きっと勝負にならないと思うんだ。積み重ねた年月がそもそも、スタート時点で違う。」

 

「そうだろ?それで、一体そこまで遡って、どうするんだ?」

 

「つまり、遡るっていうのはこういう事なんだよ。今の一流選手の技を遡ると、最後は必ず一番初めの選手、そのスポーツを始めた人に突き当たるんだ。今度は逆に、そこから今の一流選手に行きつくまで進化の過程を順に追っていくと、全ての選手の色んなエッセンスが取り入れられて進化してきたことが分かるんだ。」

 

「あー、なるほど。そうか、そうだよな。一番初めの時代の強い選手の真似をしながら、自己流にアレンジして、またその次の時代はその真似をしてさらにアレンジして、そうやって今の一流の技術になるわけか。」

 

「そういう事なんだよ。だから今、吉田君が読んでいる本の著者であるその一流選手の技術も、もともとは今までそのスポーツをやってきた沢山の人のものなんだ。その中で、もちろん全部をそっくりそのままマネできるわけじゃないから、自分流にはアレンジしているはずだけど。それで、その人のプレーをそっくりそのままマネしてみようって思ってやってみると、今までの沢山の人のエッセンスをそのまま得られるという事なんだよ。これを分かったうえで真似するのと、ただ単に形だけ真似するのとでは、その過程で得られる気づきが全然違うと思うんだよ。だから、そうやって遡って考えたら、すごくありがたいなって気持ちにもなってくると思うんだ。」

 

「なるほど。そうだな。そう考えると、ムリだと思ったことでも一回真似してみるのがすごく大事なことなんだって改めてわかるよ。でも、やっぱりそっくりそのままってのはちょっと恥ずかしいな。なんか自分がないような気がするし。周りから見て、あいつマネしてるみたいな感じになるし。それに、自分流にアレンジしたときに、変になったらまたさらに勝てなくなりそうだし。」

 

「何度も言うけど、そっくりそのまま、全部マネして良いんだよ。だって、学校のテストじゃないんだから。厳しく聞こえたらごめんね。スポーツもしたことないのにって思うかもしれないけど、これは全てに通じることだから教えるね。マネしていいのにマネしない、そういう我の強さがあるうちは、きっと吉田君は変われないと思うよ。人にマネしてるって言われる恥ずかしさと、本当に勝ちたいという目的を天秤にかけた時に、恥ずかしさが勝っているんだ。そこで、もし本当に勝つという目的を達成したいと思ったら、恥ずかしさなんかなくなるはずだよね。」

 

「・・・。わかるよ。佐々木の言う通りだ。俺だって、その変なプライドをどうにかしたい。だけど、どうしてもそういうのが邪魔してくるんだ。」

 

「そうだよね。分かるよ。人間は必ずそう思うんだよ。特に吉田君のような真面目な人は特に、そう思いやすいんだ。」

 

「いや、真面目というより、頑固なんだよ俺は。さっきから、佐々木の言ってることは分かるのに、どうしてもやりたくないみたいな気持ちが出るんだ。それは我が邪魔してるんだってこともすごく分かる。こういう時は一体どうしたらいいんだ?」

 

「それなら、簡単だよ。吉田君、そういう悩みをなくすために、人は宗教というものを作り、導き合ってきたんだ。そういった教えの中にヒントがあるんだよ。」

 

「宗教?」

 

(次回へ続きます)

 

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指導者にその人の「基本」を押し付けられそうになった時には、一旦、吉田と佐々木がやったように、そのスポーツの発祥まで遡ってみましょう。そうすると、どの人のどんなプレーもたくさんの人が紡いできた結果なんだという事が分かります。

そうすると、仮にあなたがその指導者自身に納得していなくても、その指導者の教えているプレー自体は、今までの沢山の人の積み重ねだという風に思えるはずです。そうすると自然と技術そのものに尊敬の念は生まれてきます。その指導者自身を尊敬していなくても、です。

もしそう言う見方をしてみて、それでもそんな風には思えない、「この指導者は自分勝手なことを言ってるだけだ」という風に思うのであれば、それはあなたの感覚がきっと正しいので、自分で決めて、自分の道を進んでください。

 

一切のことに謙虚になって、謙虚な目で物事を捉え、その上でまだおかしいと思う事は、やっぱりおかしいのです。それでも我慢して、辛い思いをして指導者についていく必要はありません。

 

指導者に対する悩みや、自分自身の頑固さや、優柔不断さ、気の弱さなどに悩み、苦しむ。

そんな色んな葛藤が起きるのは、スポーツの現場でも日常茶飯事です。

 

そういった悩みに苦しむ吉田に、それに対応するためのヒントを、佐々木が宗教に例えて教えようとしています。

 

ぜひ、次の章も吉田の身になったつもりで、佐々木の言に素直に耳を傾けてみてください。