【物語】2回目 会得

前回の記事はこちら

 

daichan2525.hatenadiary.jp

 

 

吉田は佐々木に言われた通り素直な気持ちで、もう一度同じスポーツ選手の本を読んだ。

そして、また佐々木に会いに来た。

 

~~~ 

 

吉田「佐々木。ありがとな。おかげでもう一回読めたよ」

 

佐々木「それは良かった。どうだった?」

 

吉田「佐々木に言われた通り、頭を空にしようと思って読んでみたんだけど、中々難しくてさ。気が付くと、また『この人の』ってラベルを貼ろうとしちゃうんだよ。でも、そんな時は“生まれたての赤ん坊”って言葉を思い出して、自分に言い聞かせながら読んでた。そしたら、不思議と今までより素直に読めたと思う。」

 

佐々木「そっかそっか。生まれたての赤ん坊は良いね。でも、そうやって読んでたら意識するだけで得られるものが違ったでしょ?」

 

吉田「そうなんだよ。前と全然違った。前読んだときは『この人だから』って思って読んでたんだけど、今回はそれを考えないようにした。そしたら、『前はこんなこと書いてあったっけ?』みたいに思う事が多くて。前回読んだときは気が付かなかったのか、読み飛ばしちゃってたのか。とにかく1回読んだ本って感じはしなかった。」

 

佐々木「それは吉田君が素直な気持ちで読んだからだよ。『自分』というフィルターと『相手』というフィルターを取り除いたから、そこに書かれてあるものにしっかり気づくことが出来たんだ。」

 

吉田「ところで、この間言ってた『全部が必要』ってどういう意味?それが分からなかった。素直に読んで、『だれだれの』を抜いてヒントをもらおうとしたけど、やっぱりそこが分からない。どうしても必要かどうかの判断はしなきゃいけないよな。やっぱり現実的にその人とは身体の作りも違うし、どうしても無理だなってことはある。」

 

佐々木「それはね、実は簡単なことなんだよ。それはこういうことなの。ところで、吉田君はその本を読んで、得たヒントを実際に試してみた?」

 

吉田「え?ああ、もちろん。すぐにその日の練習でやってみたよ。だけど、中々難しいし、最初から完璧にはできないしな。できてたら今頃オレもオリンピック選手だ。」

 

佐々木「そうだね。ところで、自分で『これ、ムリかもな』って思ったヒントは試してみた?」

 

吉田「いや 試してないよ。だって、どうやっても出来ないものは出来ないよ。それを判断するために、佐々木が教えてくれたように『だれだれの』を抜いてちゃんと読んで、そのうえで『これはオレには必要ないな』って判断したんだから。間違ってはないだろ?」

 

佐々木「もう一つ、忘れてるね。技術そのものを見ることが出来たら、今度はそれを分析するんだよ。これはもともと誰の技?どんな考えでやってるの?そんなことを考えてみるんだ。」

 

吉田「そうだった。でも、やっぱりそれって難しくないか?もともと誰の技かなんて、そんなのどこまで遡ればいいの?そのスポーツが始まったとこから考えなきゃわかんないし、そんなのやってたらきりがない。だったら一回やってみた方が早いよ。そしたら本当に無理かどうかわかるし。・・・・あっ。分かった、佐々木。そういう事か。どんな技も決めつけずに、やってみたらいいんだな。」

 

佐々木「そう、そういう事だよ。今、自分の中で全部解決したね。何か技術とか考え方を身に着けるときって『会得』とか『体得』とかいうでしょ?つまり、会いに行って得る。身体で得る。という事なんだ。『これは無理だからやめておこう』という考えは、会いに行ってすらないんだ。会えば、観察できる。そして、身体で得ることが出来る。それが本当に分析するという事なんだ。」

 

~~~

 

次の話へ続きます。