【物語】3回目 実践

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会得とは、会って得ることだと吉田に説く佐々木。

納得したかに思えた吉田だが、佐々木にさらなる質問をします。

そんな吉田に、佐々木は実践することの大切さを別の角度から説いていきます。

 

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吉田「なるほど。でも、実際やってみる前から、『きっと自分にはできないだろうな』っていうものは、実際スポーツやってると分かるのはどうしても分かるんだよ。そういう時でも1回やってみた方がいいの?それって無駄じゃないか?逆に自分のプレースタイルに変な癖がつきそうで嫌なんだけど。」

 

佐々木「それでもやってみた方がいいと僕は思う。実際やってみると、『自分には出来ない』という事が本当に分かる。『最初からできない』と思ってやらないのと、『やってみたけど出来なかった』というのは結果的に一緒だけど、その過程に『経験』というものが入るんだよ。そこで、何が原因で自分にはできなかったのかとか、どこまでなら真似することが出来るのかとか、そんなことが分かるよね。そしたら、やらなかった時よりも多くのものを手に入れることが出来るんだ。それはその技では約に立たないかもしれないけど、他の技を手に入れるときに役に立つかもしれない。すでに自分が出来る技をもっと磨くのに役立つかもしれない。そういうヒントを得られるだけで十分すごいことだと思うんだよ。」

 

吉田「そう言われれば、そうだな。自分のやってるのと違うスポーツでも、たまに遊びでしたりすると『自分のスポーツでもこの動き使えるかも』ってこともよくあるし。だけど、やっぱりどこかでそういう時間がもったいなく感じちゃうんだ。そんなの1個ずつやってたらきりがないし。だとしたら、自分の技を磨くことに時間を使っても良いような気がしちゃうんだよ。」

 

佐々木「うまくいってる間はそれで良いんだよ。だけど、自分の考えで上手くいかなくなったからこうして本を読んで学ぼうとしてるんだよね?それを自分で考えて時間を使えば上手くできるって考え始めたら、それって元に戻っちゃうよね。」

 

吉田「あっ、そうか。うん、確かにそうだ。」

 

佐々木「ところで話は変わるけど、禅の教えで、『月を指す指』って言葉があるんだけど、これは月を指す指は、月ではないという事なんだ。」

 

吉田「月を指す指?それはもちろんそうだよ。月と指は別物じゃん。」

 

佐々木「だけど、昔は月を指す指を見て、指を月だと思うような勘違いしちゃう人が多くいたんだ。もちろん、今でもほとんどの人がそういう勘違いをしている。」

 

吉田「いやいや佐々木、それはないよ。月と指とを見間違えるなんて、どうかしてる。昔は分からないけど、今の時代そんなもの見間違えるなんて、よっぽど眼鏡の度が合っていない人くらいだろ。」

 

佐々木「そう思うよね。だけど、これは月の話ではなくて、悟りを求める修行している人の話なんだ。つまり、月というのは『悟り』。そして、こうすれば悟りにたどり着けますよというヒントとなるものが『月を指す指』という事なんだよ。だけど、この『悟りに導くためのヒント』になる書物や口伝を、『悟りそのもの』と勘違いしちゃう人が多かったんだ。つまり、目的とその道しるべを、混同してしまう人が多いんだ。」

 

吉田「悟りか。なんか難しくなってきたな。けど、なんとなくわかるぞ。本を読んで、それで分かったつもりになっているオレと一緒だって言いたいんだろ?」

 

佐々木「うん、そうなんだよ。本に書いてあることはヒントでしかないんだ。それを自分が試行錯誤して身につけなければならない。つまり、行動を起こさないといけないんだ。月を指す指を見て月を得たと満足せずに、その指の方向をヒントに、自分で月を探しに行かなくちゃいけないんだ。」

 

吉田「なるほど。だから、素直な気持ちで読めってことなんだな。勝手に指を月だと勘違いしないように。それで、無駄とか無理とか決めずに素直に何でも実際にやってみるのが大事なわけだ。うん、佐々木の言ってることが分かってきたぞ。」

 

佐々木「そう、『生まれたての赤ん坊』だよ。目の前に差し出された物は、全てに触れてみるんだよ。それで、それが食べ物なのか、触っちゃいけないものなのか、自分を楽しませてくれるおもちゃなのか、そういう事に一つずつ気づいて、学んでいく。そうして僕らは成長してきたじゃないか。スポーツも一緒だと思うよ。」

 

吉田「うんうん、そうだな。よし、出来ないなって思ったものも全部一回やってみるよ。」

 

佐々木「ぜひやってみて。絶対無駄にはならないから。」

 

吉田「あとさ、佐々木、もう一個分かんないことがあるんだけど良いかな?」

 

佐々木「もちろん。何だろう?」

 

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『得るために会いに行く』という基本的な考え。

実践するということの大切さ。

これを普段私たちは忘れてしまいがちです。すぐに頭で考えて、自分の頼りない経験則と照らし合わせて、出来るかどうかを決めつけてしまいます。

 

特にスポーツの現場では「お前にはそのプレーはまだ早い。あれはあの人だからできるんだ。まずは基本をしなさい。」などと、その技に会いに行くことを禁止されることすらあります。

もちろん、『基本』は大切ですが、そもそも、その『基本』って何だろうということを考えると、大変です。日本と海外では、同じスポーツでも基本が異なります。また、日本国内でも、指導者によって、基本が異なります。そんなあいまいな言葉で、可能性に満ち溢れた未知のプレーに会いに行くことを止められることほど、もったいないことはないと思います。

 

しかし、現実は指導者の方が技術力が上の場合がほとんどで、そちらの教えを優先しなければいけないということも分かります。

 

そんな時はどうすればいいのか。

 

この後にもう1つ続く吉田の疑問を一緒に考えてみると、そのヒントが得られますよ。

 

次の話に続きます。